高校の化学で、酸化数という概念とその計算方法について学習しますが、酸化数の意味や原理については学習していないかと思います。
本記事では、そもそも酸化数とは何なのか、なぜアルカリ金属の酸化数は+1にするか、と言った根本的なことについて解説します。
なお、本サイトは大学化学について扱っていますが、本記事については高校生でも理解できます。ぜひご覧ください。
酸化数とは
酸化数は、分子中の各原子がもつ仮想的な電荷を表現したものです。
例えば、塩化ナトリウムNaClはイオン性の分子で、Na+とCl−から構成されているため、NaClにおけるNaの酸化数は+1、Cl−の酸化数は−1となります。
では、アンモニアNH3はどうでしょうか。アンモニアは共有結合性の分子なので、先ほど説明したNaClのように単純に考えることはできません。
しかし、各原子は電子を引き付ける能力に差があるため、イオン結合ほどではありませんが、多かれ少なかれ電子の位置に偏りが生じます。
アンモニアの場合、電気陰性度はH<Nのため、NはHに比べて負に帯電していると考えることができます。ここで、大胆ではありますが、アンモニアがイオン性の分子であると無理やり考えると、3つのH+と1つのN3−のイオン結合から構成されていると考えられるため、Hの酸化数を+1、Nの酸化数を−3であるとします。
このように、酸化数は「イオン結合性と考えて無理やり割り当てた電荷」ともいえます。
なお、IUPACは酸化数(Oxydation state; OS)を次のように定義しています。
OS of an atom is the charge of this atom after ionic approximation of its heteronuclear bonds.
IUPAC Gold Book < https://doi.org/10.1351/goldbook.O04365 >
酸化数の計算ルールなど必要ない
高校の化学では次に示す酸化数の計算法を習ったはずです(番号順に適用)。
- 単体原子の酸化数は0とする。
- 分子の価数と各原子の酸化数の和は等しい。
- アルカリ金属元素の酸化数は+1
アルカリ土類金属元素の酸化数は+2 - Hの酸化数は非金属との組み合わせで+1、金属となら−1
- 酸素の酸化数は基本的に−2
- ハロゲンの酸化数は基本的に−1
初等的な化学であれば、この規則を用いれば殆どの場合の
例えば、水において、Hの酸化数は+1、Oの酸化数は−1ですが、一方で過酸化水素においてはHの酸化数は+1、Oの酸化数は−1になります。なぜでしょうか。
これは、過酸化水素の構造が分かればすぐにわかります。
高校生にとってはあまり馴染みがないかもしれませんが、過酸化水素は2つのヒドロキシ基が互いに結合している構造の分子です。
中央にある2つのOは互いに電子を共有しているので、O−O結合の電子は1つずつ分け合っていると考えます。また、電気陰性度はH<Oなので、H−O結合の電子2つはOが所有しているものと考えます。
すると、酸素原子は7個の電子をもっており、通常は6つであることから、酸化数は−1であると考えることができます。
形式電荷との違い
酸化数と類似した概念として、形式電荷があります。2つの違いは、結合性の解釈の違いです。酸化数はイオン結合に近似しますが、形式電荷は共有結合として近似します。
共有結合は、2つの原子がお互いに1つずつ電子を出し合って形成する結合です。そのため、たとえイオン結合性であったとしても、結合中の2つの電子は互いの原子にそれぞれ一つずつ帰属されると考え、仮想的に価数を導くことになります。
このような理由から、電気陰性度を考慮して電子を割り当てる必要がなく、簡単に算出できます。
形式電荷については、こちらをご覧ください。