分光学的測定は、その簡便さから学生実験でよく取り扱います。
本記事では、その際に用いるセル(キュベット)の材質による違いについて解説します。
セル(キュベット)とは
セルとは、分光光度計を用いて測定する試料溶液を入れるための容器です。キュベットと呼ばれることもあります。底面が正方形になっている直方体型が一般的です。
セルの上側の面だけがなく、そこから試料溶液を入れます。中には蓋がついている物もあります。
また、一般にはセルの底面の辺の長さは1 cmに設計されています。
加えて、側面はざらざらした面と透明な面がある場合と、全て透明な面の場合があります。
どちらにおいても、透明な部分から光が入射するように分光器に設置します。
セルには主に、石英、ガラス、プラスチックのものがあり、それぞれ特性があります。
石英製
石英製のセルは紫外光、可視光、近赤外光といった広範囲での測定に用いられ、高性能のセルです。
このうち、紫外可視吸収スペクトル(UV−Visスペクトル)をとるためのセルと赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)をとるためのセルがあり、それぞれ190−2500 nm, 230−3500 nmの電磁波を透過します。
石英製セルは高価です。どんなに安くても1万円は超えますし、高いものでは1つ数十万円します。
これは、石英の合成方法に起因します。石英は二酸化ケイ素の単結晶ですが、一般には単結晶を作るにはゆっくりと時間をかける必要があるため、どうしても高価になってしまいます。
加えて、これは実験をしていて感じることですが、セルは丁寧に扱わないと透明な面が白くなってしまうことが多く、ダメになってしまいがちです。
ガラス製
ガラス製のセルには「光学ガラス」という、普通のものよりも質のいいガラスが用いられています。
光学ガラスには複数の金属酸化物が含まれています。そのため、これらが紫外線を吸収してしまうという欠点があります。
具体的には、透過する電磁波の波長は340−2500 nm程度です。一般的な紫外可視吸光光度計は200 nmからの測定ができるものが多いのですが、ガラス製のセルを用いると約340 nm以下のデータは使えなくなります。
また、値段は一つ5万円くらいで、石英セルよりは安いです。
プラスチック製
プラスチック製のセルは主にポリスチレン製です。そのため、有機溶媒と反応してしまうため、使える試料溶液は限られてきます。
透過できる光の波長は340−750 nm程度で、紫外光と赤外光を吸収します。そのため、ガラス製のセルと同様に紫外光の吸収スペクトル測定には不向きです。
また、性能のいい紫外可視分光光度計では近赤外線まで計測することができます。しかし、プラスチックセルを使うと紫外域と赤外域のデータが無意味になってしまいます。
一方、石英やガラスと比べてかなり安いのが長所です。値段は1個数百円と、躊躇せず使い捨てができる値段です。
このことから、プラスチックセルはディスポーザブルセル(キュベット)と言われることもあります。つまり、使い捨て可能ということです。
石英・ガラス・プラスチック製セルの比較まとめ
石英・ガラス・プラスチック製セルにはそれぞれ長所と短所があります。適材適所で使い分けましょう。
材質 | 透過光 / nm | 値段 / 円 | 特徴 |
---|---|---|---|
石英 | 200−3000 | 数万-数十万 | 最も優れたセル |
ガラス | 340−2500 | 数万 | 測定する光が紫外光ではなく可視光であればわざわざ石英セルを使わずガラスセルを使うことが多い |
プラスチック | 340−750 | 数百 | ディスポーザブルセルとも。 有機溶媒との相性が悪い |
参考文献
- Spectrecology, “Guide to Cuvettes” < https://spectrecology.com/blog/guide-to-cuvettes > (閲覧日: 2024年2月19日)
- Funakoshi, “WPA 社 分光光度計用キュベット | フナコシ” < https://www.funakoshi.co.jp/contents/1965 >(閲覧日: 2024年2月19日)