【最新】アニリンの合成 – ニトロベンゼンのBéchamp還元

ニトロベンゼンに鉄またはスズを加え、濃塩酸などのプロトン源を加えると還元反応が起こり、アニリンが合成できます。

図1. スズと濃塩酸を加えたニトロベンゼンの還元
図1. スズと濃塩酸を加えたニトロベンゼンの還元

この反応は非常に有名で、反応機構も考えられてきていたのですが、2018年の研究で、どうやら別の反応経路がありそうだということがわかりました。当記事では、その具体的な反応機構について見ていきます。

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ニトロベンゼン還元の反応機構

2018年に提案された反応機構は次の通りです(ここでは白金Ptを使っています)。

図2. アニリン還元の反応機構
図2. アニリン還元の反応機構

ファンデルワールス相互作用を考慮した密度汎関数理論を用いた計算によると、白金の(111)面で反応が進む際は、この反応経路が最もエネルギー的に有利であることがわかりました。

なお、ここではH+とeが交互に反応するように描きました。二つ連続で正電荷や負電荷が付加するとは考えにくいからです。

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補足

上記で説明した反応機構は2016年に分かったものです。それ以前は別の反応機構で考えられていました。その反応機構は次の通りです。

図3. 以前までの反応機構
図3. 以前までの反応機構

この反応はbéchamp還元(ベシャン還元、ベシャンプ還元)と呼ばれています。

また、スズや鉄の代わりにラネー合金(Ni-Raneyなど)や亜鉛とマグネシウムの合金Zn(Mg)パラジウム炭素Pd/Cを用いた接触水素化が使われることもあります。

今回はニトロベンゼンの還元を例にbéchamp還元を紹介しました。しかし実際には、広くニトロ基をアミノ基に還元することができます。

この反応では、中間体としてニトロソベンゼンフェニルヒドロキシルアミンが存在することになっていますが、ニトロソベンゼンは不安定で、フェニルヒドロキシルアミンは速やかに還元してしまうことから単離できていません。

つまり、béchamp還元の反応機構は正確に分かっていません。

今回紹介した反応機構もあくまで計算で求めたものにすぎず、実証されているわけではありません。

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参考文献

一般的な有機化学の教科書にbéchamp還元の反応自体は載っています。しかし、詳しい反応機構は載っていないことが殆どです。

また、béchamp還元という名前も教科書ではあまり見ません。それなのに化学実験では頻出なのです。何とも厄介な話です。

このように、実験で扱った反応が教科書に載っていない場合はしばしば訪れます。その際には実験書を読むと良いでしょう。

大学で配られる実験テキストは、実験書と呼ばれる、化学実験の方法や反応機構等について書かれている本を参考にして作られています。

この記事の下にある参考文献に有機化学の実験書を載せておきました。

ちなみに今回紹介した研究は2016年の論文に掲載されており、比較的新しいことから教科書等ではまだ取り上げられていないと思います。このようなこともあるので、本当は論文を読んでほしいところです。

  • Tian Sheng, Yi-Jun Qi, Xiao Lin, P. Hu, Shi-Gang Sun, Wen-Feng Lin, Chem. Eng. J.2016293, 337.
    https://doi.org/10.1016/j.cej.2016.02.066
  • (実験書)フィザーウィリアムソン有機化学実験
    (Fieser, Williamson, “有機化学実験”, 丸善出版, (2000))