濃度消光とは?蛍光強度が濃度に比例しない理由は?

蛍光の強度を測定する実験をする際には、濃度消光について考える必要があります。

本記事では、まずは消光などについて説明し、続いて濃度消光の基本的な原理について解説します。

スポンサーリンク

基礎:分子と光・分子の相互作用

濃度消光を説明する前に、まず消光とは何かといった、分子と光・分子の相互作用についての基礎を簡単に説明します。

一部の分子は、励起状態している電子を基底状態に戻す際の差分のエネルギーを、別の分子に移動させ、電子を励起させることがあります。これを励起エネルギー移動といいます。

図1. 励起エネルギー移動の図示
図1. 励起エネルギー移動の図示

励起状態の分子と相互作用して他の分子が励起されることを増感といい、励起させた側の分子(分子A)を増感剤といいます。

また、基底状態の分子と相互作用して、他の分子の励起状態が基底状態になることを消光といい、励起させられる側の分子(分子B)を消光剤と言います。

このように、増感と消光は片方だけが存在するということはなく、どこかで増感が起きていればどこかで消光が起きています。同様に、増感剤だけ、消光剤だけという状況もあり得ません。酸化剤と還元剤が同時に存在するのと同じです。

スポンサーリンク

濃度消光とは

それでは、濃度消光について説明します。

消光は、励起状態にある化学種が、他の分子と相互作用することによって、励起エネルギーを失う(失活)ために起こります。

消光、失活は英語ではともにquenching(クエンチング)とよばれるため、しばしば混用されますが、消光は励起状態が発光性の場合に限定して使います。

蛍光物質の濃度が高いということは溶液中の蛍光物質の量が多いということなので、ふつうなら濃度が高ければ高いほど蛍光強度が大きくなると考えられます。

しかし、実際はそうはならず、途中までは濃度が高くなるにつれて蛍光強度も大きくなりますが、ある所で頭打ちになり、蛍光度が小さくなります。

これは、蛍光分子の濃度が高くなると溶液中の蛍光分子同士の距離が小さくなり、分子間相互作用の影響がより強くなることで、蛍光として放出されるはずのエネルギーが励起エネルギー移動を起こし、蛍光が見られなくなくなるからです。

低濃度では、分子間の平均距離が大きく、励起エネルギー移動の確率が低くなるため、蛍光強度が小さくなることはありません。

また、濃度が高すぎて入射光が試料近傍だけにしか行き届かず、透過光の検出位置によっては透過光が低く見積もられることも考えられます。

以上のことから、蛍光強度は濃度に比例せずに途中の高濃度域で頭打ちになります。

スポンサーリンク

参考文献

  • 日本化学会編, “第5版 実験化学講座 分析化学”, 丸善, (2007), p.253
  • C.R. Ronda, Luminescence: From Theory to Applications, Wiley-VCH, Weinheim, 2008.
  • E. Nakazawa, in: W.M. Yen, S. Shionoya, H. Yamamoto (Eds.), Phosphor Handbook, CRC Press, Taylor and Francis, Boca Raton, FL, 2007, p. 11.
  • Guifang Ju, Yihua Hu, Li Chen, Xiaojuan Wang, Zhongfei Mu, Physica B2013415, 1.
    https://doi.org/10.1016/j.physb.2013.01.027